滋賀県の中心に位置する琵琶湖は、古くは「淡海(おうみ)の海」、「鳰(にお)の海」などと呼ばれました。「近江」の名は「遠江(とおとうみ)」(静岡県浜名湖)に対して、 奈良の都により近い「近つ淡海」の言葉に由来します。 近江ではこの琵琶湖や四方の山々に対して古くから自然信仰が生まれました。また、大陸からの渡来人が多く居住したことから、最先端の技術や文化がもたらされ、仏教文化がいち早く流入した場所でもありました。
やがて神と仏が融合した信仰が生まれます。特に平安時代には最澄(767-822)が比叡山に天台宗を開いたことから、天台宗を中心とする仏教文化が花開き、「近江の湖は海ならず、天台薬師の池ぞかし」(『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』)とうたわれました。その後も新しい宗派の仏教を受容するとともに、多くの仏像や仏画が制作されるようになります。
一方、近江は都に近接し、西日本と東日本を結ぶ交通の要衝でした。それは単なる通過点ではなく、政治的に重要な場所として「近江を制する者は天下を制する」と意識され、そのため近江は歴史上戦禍の多い場所でもありました。それにも関わらず、現在多くの神や仏に関する文化財が遺されています。 それは、神仏は信仰の対象であるとともに、 地域の人々の精神的な支えであり、大きな戦いや災害が起こった時には、地域の人々があらゆる手を尽くして自らの神や仏を守り抜いてきたからです。近江では大寺社ばかりではなく、各地域に神や仏が伝えられている点が大きな特徴であり、各時代の、各宗派の文化財が県内一円に広く分布し、今もなお地域に根ざして息づいています。このような文化財の伝わり方は近江独自のものといえ、近江の歴史文化の一端を物語っています。
このたびの写真パネル展は、20年以上にわたり近江の国宝や重要文化財などの文化財写真を撮り続けてきた文化財写真家の寿福滋(じゅふく しげる)氏の作品を展示いたします。寿福氏は、近江の歴史や風土に感銘を受け、近江ならではの風景写真もライフワークとして撮影しています。本展では琵琶湖をめぐる近江の自然と、そこで育まれた神や仏の美術の一端をご覧いただき、近江の豊かな歴史や文化に触れていただければ幸いです。
展 覧 会 名
写真パネル展 「水と神と仏の近江」
会 期
平成24年9月8日(土)から9月23日(日)
会 場
日本橋三井タワー1階アトリウム 東京都中央区日本橋室町2-1-1
三井記念美術館
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